「親が金持ちだったら、こんな苦労しなかったのに」
一度でも、こんなことを思ったことはありませんか? 私は正直、ある時期に何度もそう思いました。友人の家に遊びに行ったとき、玄関先で目に入った広いリビング、ブランドもののソファ。帰り道、電車の中でぼーっと窓の外を眺めながら、「ここで生まれた差は、もう埋まらないのかな」とうっすら感じたことを、今でも鮮明に覚えています。
「親ガチャ」という言葉が流行語になったのは2021年のことですが、この感覚自体は、ずっと昔から若者の心の奥に静かに存在していたものだと思うんですよね。
ただ、この記事では「不公平だ」で終わる話はしません。
統計データが示す格差の現実をしっかり直視しつつ、それでも「自分の人生をどう切り開くか」という具体的な話をしていきます。絶望を正直に認めながら、それでも前を向くための地図を一緒に描いてみましょう。
「親ガチャ」とは何か?格差の現実を直視する
「親ガチャ」という言葉、みなさんはどんな感覚で聞きますか?
社会学者の土井隆義・筑波大学教授はかつてこの言葉について、「親を責める言葉ではなく、子が自分を守る言葉だ」と指摘しました。なんとなく分かる気がしませんか。理不尽な現実に対して怒りをぶつけるより、「そういう運命だったんだ」と呼び方を与えることで、ちょっとだけ気持ちが楽になる。それがこの言葉の本質なんですよね。
でも、気を楽にするだけで終わっていいのか?という問いも、同時に持っておきたいところです。
資産格差は「所得格差」より大きい
実は、格差の問題を語るとき、多くの人が「収入の差」に注目しますが、本当に深刻なのは資産の差なんですよ。
内閣府のデータによると、所得格差を示すジニ係数が0.3台半ばで推移しているのに対し、資産格差のジニ係数は0.6前後という水準です。所得と比べ、資産格差のほうがはるかに大きいことが分かります。さらに、世帯主が50代の家計は20代の家計の7倍近い純資産を持っており、60〜70代になると20代の9倍前後にのぼるというデータもあります。
「年を取れば差は縮まるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、残念ながら所得では最も多い50代でも20代の2倍強にとどまる一方、資産格差はその数倍という状況が続いているんです。
20代の単身世帯、中央値はたったの15万円
2024年の金融広報中央委員会の調査によると、20代単身世帯の金融資産中央値は15万円という水準です。一方で同じ調査の単身世帯全体の平均値は989万円。この差の大きさに、思わず「えっ」と声が出てしまいませんか。
そうです。平均値は一部の富裕層に引っ張られているので、実態とはかけ離れているんですよね。20代でコツコツ貯めても、そもそも出発点から何十倍もの差がある人たちと同じスタートラインに立てないという現実が、ここに数字としてハッキリ表れています。
「格差が固定される」という恐怖の正体
正直、この章を書きながら私自身、ちょっと気が重くなりました。でも、ここを直視することが出発点だと思うので、続けます。
教育費の差が、人生の分岐点になる
選抜度の高い大学に進むためには中高一貫校が有利とされ、学費が高額なのはもちろん、塾の費用もかさんでいく。この問題は「教育格差」として広く認識されています。
厚生労働省の調査では、ひとり親家庭の**相対的貧困率は48.1%**にのぼります(2018年時点)。全体の貧困率15.4%と比べると、3倍以上という衝撃的な数字です。
さらに、奨学金の現実も見ておきましょう。令和4年時点で、貸与型奨学金の利用者は123万人超、総額9,147億円。1人あたり数百万円の借金を抱えて社会に出る若者が、今や新卒の約半数にのぼるというんですよね。親が学費を出せた子どもとそうでない子どもでは、スタート時点から何百万円というハンデが生じているわけです。
「努力すれば報われる」は本当か
ここが、一番センシティブな話になるのですが……。
研究では、人の能力や性格は遺伝的要素と環境的要素がそれぞれ約50%ずつ影響すると言われています。ということは、努力や環境がまったく無意味というわけでもないし、すべてが努力で決まるわけでもない、ということになりますよね。
「努力が報われない」と感じる若者が増えているのは、努力に見合った成果が出にくい社会構造が存在しているから、という側面があることは、素直に認めておく必要があると思います。
「絶望」で終わらせない——3段階の思考シフト
さて、ここからが本題です。
格差の現実を知ったうえで「やっぱり無理だ」と折れてしまうのか、「でも、ここから何ができるか」を考えるのか。この分岐が、実は最も重要なんですよ。
① まず、感情に「正当性」を認める
絶望するのは当然です。「ずるい」と思うのも当然です。
精神科医・いっちー氏も指摘しているように、「親から切り離して自分の人生を生きる」という選択ができるのは自分だけです。でも、まずその選択をするためには、感情の整理が先に来ます。怒りや悲しみを「弱さだ」と封じ込めてしまうと、かえって動けなくなるんですよ。
私自身、「あの家に生まれてさえいれば」と感じていた時期、その気持ちを「みっともない」と無理矢理抑えていました。あれは逆効果でした。むしろ「そうだよ、不公平だよ」と一度しっかり認めることで、変に気持ちが整理されたんです。
② 「親の問題」と「自分の問題」を分ける
ここが肝心ですね。
親の資産や環境は、過去の話です。変えられないし、変える必要もない。でも、「これからの資産形成」は全面的に自分の話です。ごっちゃにしていると、いつまでも「親のせい」という物語の中に閉じ込められてしまいます。
具体的なイメージとして、こんな問いを持ってみてください。
「親が裕福でなかったから私は何もできない」ではなく、「親が裕福でなかったという事実から、私は今後何を学ぶか?」という問いです。
答えは人によって違うはずです。「お金の話を誰も教えてくれなかったから、自分で学ぶ」でもいいし、「奨学金地獄を経験したから、子どもへの教育費準備は早めにやる」でもいい。
③ 「ゼロから積み上げる」武器を知る
以前は「お金はお金持ちの家に生まれた人だけが増やせるもの」というイメージがありましたが、今はそうじゃなくなりつつあります。これは本当の話です。
たとえばNISAの制度です。毎月3万円(年36万円)を年利4%で20年積み立てると、約1,100万円になる計算です。元本は720万円なので、380万円以上が運用益になる。無収入の状態から始めた人でも、こうした仕組みを使えばゼロからでも資産形成できる時代になっているんですよ。
「そんなの知ってるよ」と思う人もいるかもしれません。ただ、資産格差の本質のひとつは「情報格差」でもあります。富裕層の家庭では当たり前のように話されているお金の話が、そうでない家庭では「タブー」あるいは「存在しない話題」になってしまっている。その差を埋めることが、最初の一歩なんです。
「親ガチャ外れ」の人が実際にやるべき5つのこと
正直に言いますと、私がこの5つに辿り着くまでには、かなり遠回りをしました。「貯金だけしておけばいい」と思い込んでいた時期、副業に飛びついて失敗した時期、いろいろありました。その経験も踏まえながら、順番に書いていきます。
① お金の「基礎教育」を自分でやり直す
家庭で教わらなかったのは仕方ない。でも、今からでも遅くはありません。
まずは「ジュニアNISA」「新NISA」「iDeCo」の3つの仕組みを理解することから始めましょう。特に新NISAは2024年から始まった制度で、年間360万円まで非課税で投資できます。「投資は怖い」という人こそ、まず仕組みを知ることが出発点です。
具体的な勉強法としては、図書館で借りられる本(山崎元さんの本や、両@リベ大さんの書籍など)から入るのが費用ゼロで始められておすすめです。
② 「コスト意識」を徹底的に鍛える
お金持ちの家に生まれた人が持っている最大の武器のひとつは、実は「意識してお金を使う習慣」だと気づきました。
支出の見直しで効果が大きい順に並べると、住居費、通信費、保険料の3つです。たとえば格安SIMへの乗り換えだけで、月5,000〜8,000円の削減になることも多い。年換算で60,000〜96,000円、10年で60〜96万円です。地味に感じるかもしれませんが、これが後の投資の「元手」になります。
③ 「副業」より先に「本業の市場価値」を上げる
副業ブームで「まず副業だ!」と飛びついてしまいがちなんですが(私も経験あります)、本業の年収を上げることのほうが、実は圧倒的に効果的なことも多いんですよ。
年収が50万円上がれば、月4万円以上の差。それを20年続けたら1,000万円の差です。スキルアップ、資格取得、転職交渉など、本業への投資を先に考えてみてください。
④ 「親の価値観」から自由になる
親の金銭観や人生観を、知らず知らずのうちに引き継いでしまっていることがあります。「お金の話はするものじゃない」「大きな夢を持つのは恥ずかしい」「安定した会社に入れ」など。
これが「自分の本当の選択」なのか、「親から刷り込まれた価値観」なのかを一度点検してみることが、実は非常に重要です。自分がやりたいこと、なりたい姿を「親の目線なし」で考えてみると、思わぬ発見があるかもしれませんよ。
⑤ 「比較する相手」を変える
SNSで裕福な友人の投稿を見るたびに「また差が広がった…」と感じる経験、きっと誰でもあるでしょう。でも、比べる相手が「自分より恵まれている人」ばかりになると、一生絶望から抜け出せないんですよね。
比較すべきは「過去の自分」か、「理想の自分」です。「去年より資産が増えたか」「5年前より知識が増えたか」という軸で生きると、少しずつ自己効力感が回復していきます。
格差を乗り越えた人たちのリアルな共通点
「親ガチャ外れたと思っていたけど、今はそれほど気にならなくなった」という人に共通しているのは、何か劇的なことをしたわけじゃないんですよね。
友人のAさん(30代・会社員)は、大学時代に奨学金500万円を借りてスタートしました。最初の3年間はとにかく支出を削り、月2万円から積立投資を始めた。「最初は正直ちゃんと機能するのか半信半疑でしたけどね」と笑っていました。でも10年続けた今、奨学金は完済し、純資産は500万円を超えています。劇的なビジネス成功ではなく、「地味なことを続けた」だけです。
別のケースでは、親が借金持ちでお金の話が一切なかった家庭で育ったBさんが、20代後半から「お金の基礎勉強」を始めたことで人生が変わった、という話を聞きました。「うちの親には絶対教えてもらえなかったことを、本や動画で学んだ」と言っていたのが印象的でした。
「絶望」は認識であって、現実の全部じゃない
まとめにかえて、少し踏み込んだ話をします。
「親ガチャ外れ」という感覚は、完全に正しい認識です。資産格差は実在するし、不公平も実在する。その事実を否定する気は一切ありません。
でも、ここで立ち止まってほしいことがあります。
「絶望した状態」でいると、人間はチャンスを見逃しやすくなります。脳科学的に言えば、ネガティブな感情が強いと視野が狭くなり、目の前にある選択肢を「ない」と感じてしまうんです。
逆に「不公平は認識しつつ、できることを淡々とやる」という状態でいると、5年後、10年後は驚くほど違う場所に立てることがあります。格差を「運命」と思うか、「出発点が違うだけ」と思うか——この違いが、長い目で見ると大きな差を生みます。
あなたがこの記事を読んでいるということは、少なくとも「何かを変えたい」という気持ちがあるということです。それだけで、スタートとしては十分すぎるくらいですよ。
まとめ:「ゲームのルール」を知ったあとに動く
| ステップ | 具体的なアクション |
|---|---|
| 感情の整理 | 「不公平だ」という感覚を認め、正当化する |
| 認知の整理 | 「親の問題」と「自分の問題」を分ける |
| 知識の獲得 | NISAやiDeCoなど、お金の仕組みを学ぶ |
| 小さな行動 | 月1,000円でも積立投資を始めてみる |
| 比較軸の転換 | 他人でなく「過去の自分」と比べる |
格差社会は確かに存在しますが、「ゲームのルール」を知ってから動くのと、何も知らずに動くのでは、結果がまったく違います。
「親ガチャ外れ」は出発点の話。到達点は、まだ決まっていません。
参考データ出典:内閣府 経済財政白書、金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(2024年)」、総務省「家計調査(貯蓄・負債編)2024年」、厚生労働省「ひとり親家庭の現状と支援施策について」、文部科学省「奨学金事業の充実」


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